さらに調査すると、それぞれの方式による特徴も解ってきたので要点をまとめると、「気柱の共振現 象」 の原理通りに閉塞端では振幅の節が、開放端では振幅の腹となり両者での位相が反転しているという基本原理を利用しているという点で共通している。 気柱の全長が使用する SPユニットのFs(最低共振周波数)=気柱の共振周波数となるように、その長さをλ/4に合わせてチューニングする事で、閉塞端すなはち節と なる位置にある SPユニットの 振動板に制動を与 える事ができるので、インピーダンス特性のピーク(山)を低く抑える事が 可能であり、適度に吸音材を充填した際にはユニットのFsの上下にバスレフのような低いインピーダンスの山が2つ出現する。さらに過剰に吸音材を詰め込みすぎ た 場合には密閉箱のようにインピーダンスの山は一つになってしまう。
1. Streight型は基本通りに1/4波長の片側が閉じたパイプであり、その太さにより開口補正が入るため、若干の短縮率に違いがあるものの高校物理の授業で習う通りの長 さ依存の振動動作であり、太さ∽容積というバスレフ箱的な考え方は通用しない、考慮すべきは管の長さと太さで、こちらはSd(有効振動板面積)に対するパイプ 内部の断面積を使用するSPユニットのSdより大きくとり2倍〜4倍程度になるようにするのが一般的。 あまりに細いと効率も低下するし、流速が上がりすぎて ヒューピューと笛の ような風切り音が聞 ける(笑)
2. Tapered (Expanded)型は一般的にQWTLといえばこの型を指すようだ、同じ共振周波数ならばパイプの全長は若干Streight型よりも長くしなくてはなら ない。針のよう に細くなった先端側には吸音材を詰めることで、B&W社の「ノーチラスチューブ」等と同様な吸音構造を持つ、大きな開放端ゆえに風切り音が無い低域放射が特 徴、必然的に閉塞端に は 面積が足りなくてユニットがつけられない構造なので、必然的に取付位置は閉塞端から大きくオフセットせざるお得ないので小型のユニットが適するが、一般的には全長の 中央付近にユニット を取り付ける。直管と比較して低音増強できる帯域はやや狭めである。 一方、開放端から見ればSPユニットの「オケツ丸見え」状態なので低域特性を改善したい 範囲以外の中高音もユニットの裏側からほぼ筒抜けで漏れ出てしまう、そこでこれを吸音材で減衰させる事で目立たなくすることで何とか使えるレベルに持っていく 必要があるのが一番テクニカルなポイント。 そのためには高域にしか効かないグラスウールだけでなくて、フェルト等の比較的質量のある吸音素材も組み合わせて 使う必要が あり そうだ、トールボーイ箱に斜めに仕切り板を追加するだけで簡単に実現できるシンプルな構造なので自作する人も多い。
3. Negative Tapered型は前者とは逆に、同じ共振周波数ならばStreight型よりも全長が短くなる。 一般的に閉塞端と開口端の断面積比は3倍程度で比率が大きいほ どλ/4 で共振する長さが短縮される、断面積が大きい閉塞端寄りにSPユニットを付けるので比較的大型のユニットが取付可能。 一方奇数次の共振ポイントははぼ全長で 決まる長さのままなので1stと3rdの共振周波数は間がやや離れたものになる。 実際の設計では開口端(英語ではポートと呼ばずLipと呼ぶようです)の面 積 がSdに対して小さすぎると大音量での流速が大きく(概ね30m/sec以上に)なりすぎて風切り音の問題と能率の低下が生じるので使用する SPユニットの口径と先細りの傾斜度合いに制約が生じます、ベントの開口面積は経験的にもSdの半分ぐらいは欲しいところ、SPユニットの取り付け位置を閉塞端からオフ セットすることで気になる5倍の共振音を抑える(開口端と同振幅にする?)ことができるのも最近のTL設計手法のお約束のようです。閉塞端と開口の断面積の比 率が3の場合に直管と比較して全長が約20%短くなり、QWTLよりも開口端が絞られているために、開口部からの高音域の漏れも少なくなります。
4. MLTL型は構造図を見て「これってバスレフ箱じゃん!何も違わないだろ?」と思う人も多い と思うが、根本的に動作原理が違っていて、ヘルムホルツ共振器を利用したバスレフ型では共振ポイントでの箱内部の圧力はどこでもほぼ一定なのに対して、トラン ス ミッションライン属では位置によって圧力分布が大きく異なります。従ってベントする位置による特性の変化が極めて大きく、仮にユニットの近くにポートを付けてしまえ ば気柱共振による低音増強効果は無くなり、TL型というより音響トラップ(吸音器)付きエンクロージャーのバスレフ箱になってしまいます。 Mass Loaded(質量負荷)型という 意味は ポート内部の空気の質量が 負荷となり抵抗となるからで、同時にそこで生じるLPF効果のためにSPユニットの裏側からの中高音の漏れが低減されるものこの方式の利点。 直管でなくても Expanded 型の開口部を絞ったりポートにしてMass Loaded型にしたバリエーションはPorted TLという区切りからするとMLTL型に分類されると思う。 チューニングできる要素が一つ増えることをどう捉えるかは貴方次第という点でも奥が深い。
なぜドライバーの位置をオフセットするのかという理由を考察してみると、以下の図に示すように波動 の振幅の腹の位置にドライバーを配置した場合、開口端と同じだけ揺れるということになり1対1の変位しか得られない、逆に考えれば一番制動も効かないし、節を 駆動したときのように 〜例えれば、逆テコで支点近くに力点をおいて少ない振幅でも作用点側を大きく揺するような〜 共鳴のご利益が一番無いデッドポ イントと考えることもできるので、管共鳴によるピーク発生を避けたい向きには好都合な取り付け位置だということがその理由となりそうだ。 余談だが、矩形のバスレフ型の箱 でもエンクロージャー内部の定在波に限っては腹の位置、すなはち向かい合った面の 中央=ド真ん中 にSPユニット取り付けた方がポートから漏れて聴こえる定在波の振幅レベルは小さくなる。
最後に図示したような3次と5次定在波の振幅の腹どっちつかずの位置にマウントした場合、果たして
意味があるのかどうか? 共
鳴の鋭さ具合というかQ次第だとは想像するが興味あるところではある。 いずれの方式で作るにせよ、理想的な寸法であっても吸音材の詰め方一つで成功するかど
うか結果が 違ってきてしまうのがTL型のユニークな点なので、ここから先は実際に実験して見ないことにはイマイチ実感できない領域に突入してしまいました。
以下のリンクに実際に制作して得た結果を掲載しています
塩ビ管やボイド管、合板による折り曲げ型のTL型エンクロージャーなど色々と試してみましたが、最初に危惧していた管共鳴による土管臭い音は克服できるもの なので問題にならないことが試作と試聴を行っていく中で判りました。最初の頃は要領を得ず闇雲に吸音材を詰めすぎてはリップからの音圧をロスしまくっていた吸 音材の入れ方も、何度も経験を積むうちにコツが掴めてきました。吸音材を効果的に使用するには2種類を使い分ける必要があります。その一つはポリエステル綿系 で熱帯魚水槽用の濾 過フィルター素材です(海外でDacronとよべれている素材に近いようです 未確認)、非常に軽くてフワフワとした密度の低いものを定 在波の腹の部分、言い換えれば空気が非常に早い速度で大きく移動する箇所に低密度で配置する ことで、かなり少ない量でも効果的に定在波をダンプすることができます。 2番目の素材は、くたびれたウール毛布のように薄くても比較的密度が高い素材、プレ スされていて密度の高い床用のアクリルフェルト、自動車の床材などに使用されている圧縮ウレタンスポンジ素材、あるいはニードルフェルト等をエンクロージャー 内面の 定在波の節となるような向かい合う位置関係の壁面に貼り詰める(片面だけでも十分な場合もあります)ことで壁面での反射が抑えられ減衰するので、音が反射面を 何度も行き来することがなくなって振幅が成長しなくなり、結果的に定在波が発生しにくくなります。 それまでただ漫然と吸音材を入れては試聴を繰り返していた のが、この経験を通して吸音材を使いこなすコツが掴めたような気がします。 よく使われる吸音材の素材であるグラスウールや、カーボンウール、サーモウール等 ではふわっと入れても思った以上に低域側まで吸音してしまうようで意図的に使用する場合を除いては、このような使い方に向いてないと思います。
SPユニットの取り付け位置については閉塞端がいちばん低音の音圧を稼げるので小型のシステムならここ一択だと思います。取り付け位置が中央に寄っていくに したがって低域の増強量が減っていきますが、中型以上のシステムなら十分過ぎる量の低音が得られると思うので、よりフラットな特性を得ることを優先するために SPユニットの取り付け位置をオフセットするのは、私の測定結果を観ても分かるように十分意味ある事だと思います。
音道の折り曲げに関しては、折り曲げるごとに確実に減衰していくので極端な小型化では電気的な低域の音量補正が必要になってきます。 TLのもっと大きな課 題として、エンクロージャー内を伝わってリップから音圧が放出されるのに2分の1サイクル程度の時間がかかってしまう(尾を引くように遅れるという意味ではな く、あくまでも立ち上がり一発目の低音の量感が欠けるという感じ)ので。 この方式における私の音楽的嗜好上の課題として、オフマイク録音のクラシックやパイ プオルガンのような立ち上がりの遅い音なら何の問題もないのですが、フュージョンやオンマイク録音のジャズ等のタイトなキック音やスラップベースが目立つ曲で はSPユニットの裏側からリップを経由することになる重低音域で一発目の基音が遅れて立ち上がってくるのが判ってしまったので、少なくとも40Hz程度までは SPユニット前面側から放射される音でカバーできるサイズ以上でないとオールラウンドで聴く私の嗜好では聴ける曲を選んでしまう方式であるというのが人により ますが課題となるポイントとして挙げるべき点だと思います。
設計に際してKing氏のワークシートも有用だと思いますが、一番簡単で直感的にシミュレーションできて実際との相関関係とも確かなツールとしてLeonard AudioのTransmissionLine3.6を推奨します。同ソフトはフリーで入手できTLに限らず密閉型、バスレフ型、フロントホーン 型、バックロードホーン型、ケルトン型など様々な方式をモデリングしてシミュレーションできます。(ダウンロードにはDIY Audioフォーラムの参加登録が必要)