ND91-8 & XT25SC90 2way Passive Radiator Speaker System



ND91とXT25SC90による2wayスピーカーシステムの製作


Introduction:

  狭小な住宅事情に合わせるべく小型の2.1chスピーカーシステムとし て2wayV ツインの2種のサテライトSPを作ってきたが、できる事ならサブウーハー無しの2wayで低域の再生特性に不満を感じずに聴けるようなコ ンパ クトなデスクトップ用途のスピーカーシステムが欲しかったが、マイクロサイズのエンクロージャーでは実現することなど到底無理なことであり、無いものね だりな事だとずっと思っていた。 勿論普通の密閉箱やバスレフ箱にパッシブネットワーク構成では到底実現できないのだが、必要十分な音質で能率の低さ をカバーできる高出力 で小型軽量低発熱のClass-Dパワーアンプ、そして強力なDSPによるシャープな遮断特性のクロスオーバーとEQによるレスポンスの補正、そしてこれまでに得たエンク ロージャーデザインの知識 を総動員することで何とか 形にできそうな予感がしてきたのであった・・・

Design Concept

 当たり前なことだが、大口径のウーハーユニットを大型の強固なエンクロージャーに収めて普通に チューニングすれば容易に満足いく低音が普通に得られるだろう、しかし現実的には住環境のなかで設置可能とは限らないし、パソコンの前でネットサーフィンしながら聴こう なんて思っても大企業の社長室のデスク並みにゆったりと家具を配置しないことにはセンター位置で聴くことなどできないだろう。 それなら逆にPCのモニ ター画面の脇に置ける程度に小さくて満足いくクオリティの音が出せれば良いのではないか?と考えはじめたところからスタートしたこのプロジェクトである が、常識に逆らいつつ、聴くに耐える音を実現するためには、いろいろな技を総合的に駆使してやっと実現できた極めて難易度が高いプロジェクトなのであっ た。

 何よりも最初にエンクロージャーのサイズが「PCモニターの横に置ける程度」という制約があった。しかも40Hz付近までの音が十分な音圧で過不足な いクオリティで聴けるという無理難題な目標設定に行き着くと直面する問題として、低音をそれなりの音量で再生するために小口径フルレンジのSPユニットを 大振幅させてしまうと盛大な「ドップラー歪み」が発生するため絶対に満足いく品位の高音が得られないというジレンマがある。 経験からこのフルレンジの宿 命を痛感していたので、帯域分割して2way構成にすることに最初から迷いは無かった。

Enclosure Type Selection

 直接放射型の振動板だけで周波数が変わっても同じ音圧を得られるようにするためには、振動板の振幅を再生する低音の周波数の逆数の2乗に比例して大き くしていく必要があります、そのため小口径のSPユニットで低域まで再生するためには何よりもまずXmaxが大きいSPユニットを採用し振動板の動きに関 する制約に対処する必要が基本的にあるのですが、現実には周波数が低くなるにつれ音圧が低下していくからと、安直にEQでローエンドを持ち上げるf特補正 をしようとして密閉箱の蒲鉾型なF特のローエンド域を電気的に補正しようとしても、補正を開始した周波数から下がり始めた途端に急激にコーンの振幅が大き くなってしまうので、いとも簡単にダイアフラムが振れ切ってボトミングしてしまって思ったほど低い周波数までは再生できない。つまり、すぐ物理的な可動範 囲の限界にぶち当たってしまうのである。 そこで、何らかの方式でエンクロージャー構造を工夫する事でウーハードライバーに制動を掛けて低域でのダイアフ ラムの振幅を抑制しない限り、小口径のSPユニットの振動面積では中高域の最大SPLに見合う程度に十分な音圧の低音域を出すことはできない。 電気的補 正なしで普通にフラットに鳴るようなチューニングでバスレフ箱やダブルバスレフ箱を設計すると、3〜4インチのユニットの小径ユニットを使ってどんなに頑 張っても数リットルのエンクロージャー容積が必須となるので、今回想定している1リットル少々のサイズには到底収まらない。 そこでBOSE社の SoundLink miniやANKER社のSound Core3のように最近流行の超コンパクトなBluetoothスピーカーで多用されている例に倣って、パッシブラジエーターを使って極小サイズのエンクロージャー容積な がら極めて低い周波数までの低域再生限界という目標の両立を目指してみることにした。

 近年のBTスピーカーのパッシブラジエーターのチューニング手法は、大昔のJBL社の Olympus C50S8Rや、その昔のKEF社のRefrence104シリーズのような大型箱でのバスレフダクトと同等であることを目指したチューニング方法とは根本的に違ってきて おり、たとえ能率が 低下してしまおうともパッシブラジエーターの振動板に質量を付加して強引に低い周波数で共振をするようにチューニングを行うことでスピーカーの振動板振れ幅を制動し、代わ りにパッシブラジエーター側が大きくスイングすることで共振域でのスピーカー振動板側の振幅を抑えてボトムしにくくしています。 極端にパッシブラジエーター 振動板が重くなることに伴う能率の低下に対してはアンプ側で電気的に持ち上げて駆動することで解決できるので、その結果として見かけのエンクロージャーのサイ ズからは想像できないような低い周波数までフラットに再生することが可能になります。

Choice of Speaker Units

 冒頭で書いたように、なんとなく開発の方向性が見えてきたところで、使用するユニット選びのス テップに移りましたが、ラッキー な事にDayton Audio製の3.5インチフルレンジ ユニットND91-8とPeerless製のパッシブラジエーター 830878を頂いたので、渡りに船とばかり喜んで活用させて頂きました。ND91は一応フルレンジタイプとなっていますがダイアフラムの最大許容振幅が 25mmと極めて大きく、振動板も堅固なアルミ素材の ため制動の圧力に負けずに空気を押すことができます。パッシブラジエーターの830878は蝶ネジでウェイトを締める構造なので簡単に質量が異なるものと交換 することができます。組みわせるツイターには以前使ってみて良コスパで大きな音圧でも潰れないヌケのいい音が好印象だったVifa(現 Tymphany)XT25SC90を選びました。パッシブラジエーターはバスレフダクトのように断面積が変わると共振周波数も変わるようなクリチカルな事が無いので、個 数が多い方が能率を稼げるので可能な限り多くの振動板面積を確保します、そこで今回はスピーカー1個あたり2個のパッシブラジエーターを搭載しましたが、これ でもちょっと音量を上げるといとも簡単にパッシブラジエーターの方が先にボトムしてしまいます。(スピーカーユニットは制動が効いているから) なので、もし パッシブラジエーターを新規で購入するのならボトムしないようにXmaxが大きいDaytonAudioのDMA105あたりに変えたが良いと思っていま す。。

Designing Enclosures 

 エンクロージャーの設計検討はパッシブラジエーターにも対応しているWinISDを使用しまし た、ND91のパラメータを入力して大まかな特性の傾向は掴むことはできるが、パッシブラジエーターに極端に重いウェイトを付加するケースには対処できないの で、最終的には作ってみてからの検討となってしまいます。 それでもパッシブラジエーターの影響が小さい中高域と中低域のバランスをシミュレーションする事は 一応できるので、あ〜でもない、こーでもないとさんざん悩んだあげく約1.5リットルの内容積を持つエンクロージャーで作ってみようという事になりました。以 下に ND91-8のT-SパラメーターをDaytonAudio社のカタログから引用します。

PARAMETER
ND91-8
ND91-4
Impedance
Fs
70.7Hz 74Hz
Vas
1.41Litter 1.41Litter
Qts
0.47 0.41
Sd
30,4cm2 30,4cm2

WinISDを使って振動板の変位量をシミュレーションしてみました。

パッシブラジエーターを使い制動をかけることで低域の振動板の動きをND91のリニア領域である変 位5mm以下に抑えることができそうです、歪みが減るのと同時に高音域でのドップラー歪みも低減できることを示しています。特にポップスやEDM系の楽曲では バスドラムの基本波が60Hz付近に集中しているので、この効果が大きく出るものと予想されます。

 形状設計について気にした点として、完全に矩形のエンクロージャーだと内部に強烈な定在波が立っ てしまうためダイアフラムの動きが阻害さ れ、その周波数で振動板からの音圧特性にデップを生じます、この現象を少しでも避けるためと、机の上に置いたときに自然にリスナーの耳を向くように、フロント バッフルを8度 ほど傾斜したデザインにしました。 一番悩んだのはパッシブラジエーターを付ける位置で、全体がコンパクトにできて、重力による偏心もなく、パッシブラジエー ターの振動がキャンセルできるので左右に配置する水平対向配置が望ましいのですが、PCモニター脇に密接して置けなくなるのと、エンクロージャー内部の中域音 が漏れて聞こえがちなために音像定位が大きく阻害される作例を見たことがあったので、背面と底面の90度配置とし、床面で机がビビるのを避けるため少し間をあ けて底板を固 定し ました。質量付加をしたためにパッシブラジエーターのニュートラルの位置が偏心したりサスペンションがヘタってしまうのも心配ではありますが、空気で揺すられるだけなので 多少ニュートラルの位置が変わってしまっても平気だろう?とあまりシビアには考えないことにしました。 底面にパッシブラジエーターを配置したことで構造的な 空間を持たせるためのユニークな形状になったのでページトップの画像のイメージから「The MOAI」とネーミングすることにします。


Building Enclosures

 普段のエンクロージャー製作には曲げ強度が保証されている構造用合板を愛用しているのですが、今 回はウォールナットに似た木目が美しく、質量が大きく叩いてみた響きも魅力的なアカシア集成材を一目見惚れで採用。非常に固くて脆い板材なので特に穴あけ加工 で欠けてしまわないように細心の注意が必要です。接合面を斜めに角度つけたりフロントバッフルの角をカットしたりするのに電動トリマーやオービタルサンダー を使いましたが、ハンドツールでの加工はかなり困難だろうと感じました。以下にエンクロージャー図面を示します。



接着中の画像


仮組み中

塗装前

透明なニス仕上げも魅力的ですが少し暗めの色に仕上げたかったので「チーク色」という水性ウレタン ニスを塗ってみたら最悪で、まさに黄色がかったウ●チ色になってしまったので表面にをサンダーで削り取ろうとしたのですが黄色に染まった部分が完全には取れ なかったので、クリア仕上げは諦めて、赤茶に近い「ローズウッド色」の水性ウレタンニスで仕上げました。

刷毛スジが付かないようにスポンジはけで4回重ね塗り しましたが、上手く化粧シートを貼ってるなと見間違うほどの質感ある色合いと濡れ たようなグロッシーな仕上がりの質感はオススメです。 試してはいませんが「ウォールナット色」水性ウレタンニスでもいい感じに仕上がりそうに思えます。


側面

背面

正面


特性測定

無補正の周波数特性

エンクロージャーに搭載した状態でのユニット別の周波数特性です、ND91側はPRの共振周波 数前後の40Hzから下で急峻にレスポンスが低下しているのが見て とれ ます、40Hz〜200Hz間は12dB/octのカーブでほぼ一様に減衰していくので、この領域は電気的に補正して使用することを想定しています、設置する場所によっ てはWall Effectの効果で低域が持ち上がるのであまり補正が要らない場合もあると思われます。ND91の高域側は5kHz辺りまでが無理なく鳴らせる限界のようです。 パッシ ブラジエーターは約2cmの距離で測定しましたが近接するウーハーからの漏れがあるので音圧値も含めて参考程度です。  今回のシステムは低域補正を前提としたアクティブ型なので、チャンネルデバイダーに FreeDSP Classic SMD A/Bを使い4chアンプで駆動します。 最終的にクロスオーバー周波数は4.5kHz、48dB/oct。低域の補正はパラメトリックEQを使って補正しています。

XT25SC90は周波数特性的には1kHzからフラットに出ていますが、フロントバッフルが 傾いているため測定軸上では5kHz以上でのレスポンスがやや低下していきます。もし聴取軸上でフラットになるように調整してしまうと空間に放射される高域端 側のエネルギー量が過剰になってしまうので、このように普通の指向特性で傾斜して付いているツイターの場合は、あまり測定値に拘りすぎない注意が必要です。 

(Oct.23th, 2022追記)
テレビ用の回転テーブルを手に入れたので軸外の放射特性を測定してみました、回転テーブルの反 射の影響で1.5kHz付近が落ち込んでいますが、広域端の強い指向性を除けば正面から45度までほぼ一様にカバーできているようです。ツイターのフランジが 面一になるように埋め込んだりバッフルの角が鋭角にならないように角を45度にカットしたりしていますが、XT25SC90のウェーブガイドっぽいフランジの 形状のおかげかも知れません



フリースタンディング状態での最終的な周波数特性

室内でスタンドに載せた状態で測定した周波数特性です。約55Hzから上の周波数域ではまぁ まぁ良好なレスポンス特性となりました。
これを壁面にピッタリと付けて置いた机上のiMac両横に置いて測定してみたのが下のグラフで す。

デスクトップ状態での周波数特性

机面や画面の反射によって周波数特性にうねりが生じますが、低域端ではウォールエフェクトのた めにレスポンスが持ち上がって40Hz 以下まで再生帯域が拡がっています。内容積約1.5リットルの小型スピーカとしては上出来なのではないしょうか?

音質傾向と作成後のコメント

何よりも小型であることと、サブウーハー無しでも聴ける再生帯域を確保するという狙いはほぼ実 現できたように思えます。音量を上げていくとスピーカーよりもパッシブラジエーターの方が先に底突きしてしまうので、新規に部品を購入するのならば、より可動 域が大きいDaytonAudio製のND90-PRなどのパッシブラジエターを使用するほうが良さそうです。 パッシブラジエターに付加した質量が大きいの で相当な振動が机を通して体に感じるため、あまり音量を上げなくてもボディソニック的に音楽を楽しめるのは新たな発見でした。 低域の補正量が多めなのですが 制動されたウーハーの動きと、DSP チャンネルデバイダーの鋭い切れのおかげで相当な音量で鳴らしてもクリアな音で鳴るので気持ちよく聴けています。 セオリー通りのポイントを押さえたことが功を成した と思います。 半端ない振動で机に置いた物がビビってしまうので、これを避けたい向きにはやはりパッシブラジエーターを対抗配置して振動をキャンセルするしか ないと思います、左右に対抗でパッシブラジエーターを配置すれば底面の高さをカサ上げする必要も無くなって、高さ17cmとより一層小型なシステムとなりま す。


PS.

この製作記事をPartsExpressのProject Grallaryに投 稿した記事が掲載されました




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