FreeDSP Catamaran A/B

 

A DUAL-MONO CONSTRUCTION DSP WITH INTEGRATED DIFFERENTIAL CODEC AND  I/O BOARD


Introduction

FreeDSPのプロジェクトで何枚か基板を開発していく過程で、ADAU1701の弱点が見 えてきた、第一にSRCが無いのでデジタル接続を考えた場合の実用上の制約があること、例えばSRCなしだと今日のようにハイレゾや普通のレートのコンテンツ が混在して再生される状況ではfsが変わる度にフィルターの係数や各種のパラメーターをセットし直さなければならないし、スレーブ動作ではロックしていない時 の動作がどうなるのか?、そもそもfsが自分では読めない状況でどうやって対処するのかという課題もある。しかしながら、これはADUAU1452とか ADAU1466であれば何ら問題ない事であり ADAU1701にデジタル入力を無理やり付けること自体がナンセンスに思える。 次の弱点はチップ内蔵のコーデックのアナログ性能である。DAC側は殆どの用途で問題 ないレベルの性能だと思うが、ADCの方が最大入力レベル近くになると非直線性に起因する歪みが急に増加してくるという問題がある、0dBFSから絞っていっ て-20dB辺り まで信号レベルを下げれば十分満足いく性能なのだが、これではS/N的に不利になってしまう。 近年のJ -POPのようにレベル振り切りでマスタリングされたソースなどとの相性が最悪で、ADCがもう少しだけ性能が良ければ殆どの用途で満足できるので外部の独立したADCを 使う必要 も無くなり、この石だけで完結するのだがなぁ〜と感じ続けて2年程が経過したある日、ふと思い立って2つのADC入力に逆相の信号を入れてDSP内部で差動合成の 演算をFreeDSP Classic SMD A/Bで実験をしてみた結果は想像以上のもので、ADC-->DSP-->DACとオーバーオールで測 定した実験では100Hz での全高調波歪みが0.00723% --> 0.00287%に、1kHzでの 全高調波歪みが 0.00642% --> 0.00171%と全高調波歪みが大幅に低減された(実際に試作したCatamaran A/B基板では部品の違いもあって更に歪みが少なくなりました)、このアイディアを構想レベルのブロック図で示すと以下のようになる。


実際のインプリメントではDSP内部でのオーバーフローを防ぐために、ADCの出力値を半分に してから引き算の演算するのだが、上図からも感覚的にAD変換で生じる歪みdが打ち消されることが理解できると思う。さらに2つのADCを差動で使う ことから、理論上は残留ノイズレベルがルート2分の1、つまりS/Nも3dB改善できるのだ! こうなったらもう作るしかないという事で、以前か ら構想していたADAU1701を2個使ったモノコンストラクションの4wayチャンデバを設計してみる気になったのであった・・・



Design Concept

モノラル入力で4出力の基板を2枚使ってステレオを構成するというスタイルがなんとなく、双胴船 (英 語ではCatamaran)のイメージと重なったので、今回のプロジェクト名はFreeDSP Catamaranとすることにし、いつものようにA/Bの比較試聴が簡単にできるようにすることができる意味でA/Bというモデル名をサフィックスに付けることに決め た。

所詮DSPチップに搭載のコーデックなんてオマケ的な音が出るだけの代物だろうと思われている方も あるかもしれないが、実は普通のエントリークラスのADCやDACとそう違わない性能が得られる、総合的に見るとADCの性能限界でオーバーオールの性能が制 限されてしまう状態なので外付けの高性能ADCを使うという手も可能だが、内蔵ADCで一体何処までの性能が得られるか?という技術的なチャレンジの意味合い もある。 言い換えればチップの限界を回路技術で超える手段として2chのADCに逆相で信号を入力し、DSP内部でデジタル的に差動処理をすることでADC の非直線性がキャンセルされ、同時に残留ノイズがより分散することでS/Nも向上するというのが最初のコンセプトである。ある程度設計ができたところでDIY Audioフォーラムに投稿したところ海外のメンバーから強くバランス入出力端子の装備を薦められた。 確かに電源が3ピンで保安接地のある国で3台や4台も パワー・アンプを接続すれば不平衡出力だとGNDの電位が揃わず定位が悪化したり、グランドループの電位差に起因してノイズが載ってしまう可能性もあるだろ う、入力側についても同様で全ての機器が良好な同じグランド電位には無いと考えておいた方が現実的だと思えた、しかし単純に出力にDRV632などの石を継ぎ 足すことはしたくなかったし、第一あの程度の性能の石では明らかに音が劣化してしてしまうので使えない、随分と悩んだあげく思いついたのがバランス出力ではな く差動出力にするというアイディアであった。つまり通常のRCAピンプラグとジャックを使いながらも、機器間の電位差に合わせて信号をスライドしてあげること でバランス接続時と同様の効果を得ようというアイディアである、トランスと違って回路の動作電圧の電位差範囲内に効果は限定されるが微小な信号がダメージを受 けるのを回避するには十分な効果が発揮できるものと思われる。 そこでADC入力側にはOPA1632による差動入力をアンバランス接続しながらも抵抗でグラ ンドリフトできる構成とし、DAC側もRCAピンプラグのコールド側を抵抗で浮かせることを可能な構成としたうえで、出力信号をピンジャックのコールド側の電 位と並行 にシフトさせることができる差動出力機能を持つ多重帰還型のLPF回路を新たに開発した。例えて言えばパワーアンプの入力信号に対してコモンモードチョークや ガルバニックアイソレーター的な効果が得られるはずなので、4台のパワーアンプをRCAピンケーブルで接続してもGNDループノイズや定位感の悪化に悩まされ る事はなくなる筈という目論見である。

モノラル入力の2枚の基板を使ったステレオで構成でも便利に使えるようにするために、TDMの入出 力をフル活用することで例えば3D構成のモノラルサブウーハーを使用したりすることが可能になります、以下にTDM伝送波形の例を示します。 

Example TDM Waveform

上側のオレンジ色の波形がTDMデータ、下側の藍色の波形がI2Sでは LRCKと呼んでいる信号のFs波形です、非常に多くのデータ列が繰り返し送られているのが判ると思います。通常のI2S 伝送の場合1fs周期の間に伝えられるデータは24bitで2chですが、TMD伝送の場合同じ1fs周期の間 で8chのデータを送ることができます。

ここで送るデータはPCM音声波形でもAUXADCで読み取ったボリュームの位置情報でも、スイッ チの設定値でも、24bitまでの値なら何でも構わないので2枚の基板の間で伝えたい情報を自由に選ぶことができます、具体的な使い方については以下の図を参 照されたし。

4way Stereo Configuration: (2boards required)

左右完全分離でクロストーク一切無しも魅力的だが、現実的にはモノラルのサブウーハーに対応し たり、完全なボリューム連動を実現するために左右間でデータのやり取りを行う必要があるのでTDMリンクを活用することになります。



2way XLR output Stereo Configuration:   (2boards required)

DSP出力を差動で受けることでDACのS/N性能まで3dB向上する一番のハイパフォーマン スが期待できる構成例


4way XLR output Stereo Configuration:   (4boards required)

同様でパフォーマンスを追い続けてXLR接続で4way対応となると4枚の基板が必要になります、 この場合は左右での信号のやりとりはできません。当然クロストークもしようがありません(笑)


8way Stereo Configuration:  (4boards required)



本当にここまで拡張する人が存在するのか判らなかったのですが、イタリア方面には居るらしい事が判 明しました(笑)




Prototype Circuit Design

 ver0.11 Schematic

最初のバージョン0.1の回路は普通の不平衡入出力であった。 ADCに逆相の電圧を与える回路も普通のオペアンプで構成している。

ver 0.11 Schematic Circuit Diagram -> FreeDSP_Catamaran_Schematic_0v11.pdf

回路的にはFreeDSP Classic SMD A/Bをほぼ継承しているが、2枚の基板を連携動作させるために一部設計を変更している。デジタル入出力は2枚の基板間をTDMフォーマットで8chの音声/データを受け 渡しする ことを前提とし、外部へのDACやADCの拡張接続は考慮していない。A/Bのプログラム切り替えも2枚の基板を連動させるために信号直接でなく制御電圧で切り替えるよう に変更した。システムクロックは TCXOを使用し、片方の基板をスレーブ動作にすることで2枚の基板が同期して動くように構成を変えている。2way出力で十分な場合には2つの出力 を逆相でドライブすることでXLRバランス出力が可能なように接続ヘッダーを追加した、ちなみにこの出力方法でバランスで受けるとDAC出力信号のS/N がさらに3dB向上するという特典が得られる。 オプションで用意したXLRバランス出力基板を追加すれば同じコネクターを使って4系統のXLR出力が可能になる。


Schematic Circuit Diagram (ver0.2)

version 0.2 Schematic Circuit Diaram -> FreeDSP_CatamaranSchrmatic0v2.pdf

何度かDIY Audioフォーラムでディスカッションを交わすうちに、ただ一つの共通グランドでの不平衡接続 では、プレーヤーからパワー・アンプまで全ての機器を同一のシャーシーに入れてオールインワンででも構築しない限り理想的な接続は不可能だと思えてきました。 現実的に考えてそのように一体化できるケースはまれでしょうし、気軽にAliExpressやeBayで10ドル以下で買えるClass-Dのパワーアンプ基 板を買ってマ ルチアンプ駆動で遊ぼうというコン セプトから始めたプロジェクトではありますが、そこそこの性能が期待できるとなった以上は個別のシャーシーからなる機器を何台も接続して鳴らすときも、なるべく問題が生じ ないような実用的な回路にしようという気になったので、新たに差動の出力回路を考案し実装しています。

従来から再採用している多重帰還型のLPFフィルターと不平衡出力バッファーを兼ねた回路の後段に シリーズに回路を増やすことなく、 差動出力できる ようにRCAピンジャッ クの コールド側を抵抗で共通グランウンドから浮かせて、そこの電位をゲイン-1倍の反転増幅器で位相反転して多重帰還型LPF回路のサミングポイントに戻すことで、次段の機器 GNDとの間に電位差があった としても出力信号がRCAピンジャック のコールド端子と平行に動くようにしています。 ADC入力回路は低歪で高性能な完全対象型オペアンプであるOPA1632を使うことで正確な逆相のADC用の信号を得な が ら、同時に入力 を差動入力構成にしてグランドリフトすることを可能にしています。もう一段バッファーを追加して入力インピーダンスを上げつつ差動駆動回路側の抵抗値を下げたい という気持ちもありますが、信号経路を長くしても失うものの方が多そうな気がしたので入力インピーダンスを10kΩにすることで妥協しました。



Prototype PCB Design

今回もki-CADを使用しJLPCBでPCBAするという前提で基板設計を行います。 JLPCBは10cm×10cmを超えてもいきなり極端に基板のコストが上がる事は無いのですが、無駄に大きくしてもメリットは無いのでこのサイズで作ることにします。

Board Dimensions

目一杯に部品を載せたつもりです、苦労しつつもなんとか2層で全てを接続することができました。ま だ作ってないので、以下に基板のイメージ画像を載せます。


基板の上面側です。ステレオで使うためには、このページトップの画像のように基板が2枚必要です。 その場合いくつか不要になる部品があります。

Top View:

ADC入力側にあるC14, C13, C22などの見慣れない部品は電解コンデンサーとWIMAなどのフィルムコンデンサーの両方が使えるフットプリントです。2mmピッチと5mmピッチの部品が挿せます。残 念ながら出力側はスペース不足で電解のみ対応となりました、ピンヘッダーと長い連結用のソケットを使用して基板間を直結することも可能です、基板を重ね て使う場合は10PのMIL(IDC)コネクターはアングルタイプに変えた方が使いやすいと思います。TDMリンクを接続するケーブルは1〜10ピンをひっ くり返して接続した(ねじれた接続の)専用ケーブルを作成するか、どちらかの基板でJ3コネクターを逆向きに実装する必要があります。こうして2枚の基板を接 続することで入出力バッファーがアクティブとなりTDM信号のやりとりができ るようになります。リボンケーブルを接続していない状態ではバッファー出力がHi-Zになって、周囲に無用なノイズをばらまく事を避けるようになっています。

RCAピンジャック周辺にあるJST EHコネクターはオプションのXLRバランス出力基板やXLRコネクターと接続するためのものです。

基板の裏面側です。

Bottom View:

ディファレンシャル動作を停止させたい場合には、JP2/JP6/JP7/JP8/JP9のラ ンドを半田ブリッジすることでアンバランス出力になります。必要に応じてこのランドにグランドリフトスイッチを外付けするのも一案でしょう。

この図では左右の基板別に独立したロータリーポットを載せて個別に細かく調整する用途を意図し ていますが、左右チャンネルを連動させながら帯域別に音量を変えたい場合も多いと思います、その場合は上下の基板を貫通するロングピンヘッダーをJ7に実装し てアナログ電圧制御でもって上下の基板を連動させることもできますし、デジタル的にTDM-LINKでポットの位置情報をやり取りできるので、極めて高精度に 左右チャンネルの音量変化を連動させることもできます。 絵にはありますがリセットボタンは不要です。
このTDM-LINKは8つのデータースロットと同時にマスタークロックもやり取りすることが できるので、J11でどちらかの基板をスレーブに設定することで同一クロックで左右のチャンネルを動作させることができます。(JP1をハンダブリッジするこ とで不要な方のTCXOを停止させることができます)

Version Histories

VERSION Date Note
0.1 8th, Jan. 2022 Initial Release Un−Balanced I/O version.
0.2
15th, Jan. 2022
Differential I/O version.
0.21
29th, Apr. 2022
First Prototype PCB design for debugging and Evaluations, (Ordered to JLPCB)



Prototype Evaluation


JLPCBにVersion 0.21のデーターで基板とSMTを依頼しました、EEPROM以外の表面実装部品は全てマウントして貰えました。 基板が届いた翌日に秋月電子とマルツに寄って後付けの パーツを買って、 数時間で組み立ても終わり動作確認を始めたところ、いくつか定数変更が必要なところ(R34, R36, R46)と、一箇所ポカミス(MP0 <->MP1)があり基板の修正が必要な箇所が出てしまいました。

Lower Side (Master) version 0.21 Prototype PCB

スレーブ側の基板との間を支えるスペーサーには基板の間隔が20mmになる樹脂性の物を使用し ました、ピンヘッダーはロングタイプではなく通常の高さものです。

Upper Side (Slave) version 0.21 Prototype PCB

マスター音量や帯域別の音量バランスなどの情報はTDM-LINKを通してデータをやりとりす るのでロータリーポテンショメーターはマスター側の基板にのみ実装してあります。
J7を上下に貫通させることでTMD-LINKを使用しないでも電圧制御による連動動作も可能 です。 上下両方にポテンショメーターを実装する場合はJ7にはヘッダー/ソケットを実装しないでください。

マスター側の基板と接続するためにリードの長さ15mmのロング・ピンソケットを基板の下側に 付けてい ます、このようにソケット化することで重ねて上下の基板間はTDM-LNKケーブルだけを接続すれば接続完了です。
TDM-LINKでコントロール系のデータをやりとりするのであればJ7のソケットは不要です が、version1.0の基板では1ピン足してリセット動作を連動できるように変更したのでデフォルトで実装することにしておきます。 

TDM-Interlink Cable

注意する点としてTDM-LINKケーブ ルは捻って接続、つまりpin1が相手方のpin20に、pin20が相手側のpin1に繋がるようにする必要があるので、リボンケーブルを作成するときに は画像のように「ねじれの位置関係」になるように作成するか、普通の接続ケーブルを使ってどちらか片方の基板の20pinヘッダーを180度回転させて取り付 ける必要があります。

Change order for 0v21 PCB 

Reference
Change Order
Comment
R87 4.7k -> 1k I2C data pull-up resistor
Needed rise speed-up.
R89 4.7k -> 1k
R91 4.7k -> 1k
R34 10k -> 18k S/N goes worth even in fs=96k.
18k is better rather than 10k ohms.
R36 10k -> 18k
R46 10k -> 18k
U4 Change to FET or CMOS input Low-InputBias / Low-Noise Op-Amp. OPA1611/OPA1602 was too high Input bias currents.
Output voltage was far from input.
IC1 Swap MP0 and MP1 TDM input is only available on the MP0
(上記変更点は2022年5月17日現在、ver0.21基板)
その他の問題として5Vレギュレーターの発熱が激しいので、ヒートシンクを貼付するか、 3.3V定電圧ICのほうをVX07803-500な どのSMPSタイプに変更してDC12Vから直接生成する方式に変更するのが熱的には良いだろうと思います。しかし折角の高性能を目指していたのが 電源ノイズのために台無しになるのだけは避けたいので悩ましいですね・・・
 TDM信号を受けられるのはMP0だけなのですが、設計の段階で気づかず version0.21の基板ではTDMデータの受信用にMP1を繋いでしまっていたので受けられなくて焦りました。 MP0はLEDの点灯用にGPIOとし て使っていたので、MP0とMP1の入れ換えは以下の画像のような方法で対策をしました。 (もしTDM-LINK を使わないならこの改造は不要です)

Fixing version0.21 Board

抵抗をずらしてポリウレタン線で飛ばしてMP0とMP1を入れ換えています、振動などで剥がれ てしまわないように、動作確認後はテープやグルーで改造した部品と配線を固定 しておきま す。


Test Results

Improvement of ADC's Distortion  Performance 歪み特性について

本デザインの一番の目玉であるADCの非直線性の改善による歪みの低減機能が安物のICを使っ てしまうとコーデック本来の性能を超えられず、目的とするものを損なう可能性があったので、不慣れな高級なICを使ったがそれなりの意味があったようです。  入力されたオーディオ信号はOPA1632で差動信号に分けられて2つのADCには逆相の波形が入り、DSP内部で引き算される事で大振幅時の非直線性が改善 されました。副次的な効果として2系統のパスを加算することでシステムのノイズが 1/(√2) つまり3dB S/Nが良くなるという効果もあります。 アナログ信号を入力しADCとDSPを通してDACから出力された信号は2度の変換を経ていますがADAU1701でできること の最善を尽くしたおかげで、FreeDSP Classic SMD A/Bで予備実験したときよりもかなり良い特性を得ることができました。

通常のADAU1701搭載のADC1個使いの場合のオーバーオール特性

FreeDSP Catamaran A/B ver0.21 ADAU1701 ADC to DAC Single-End Conversion Distortion Performance

1.5kHz付近に波形の上下非対称なゆがみに起因する2次の高調波歪が多く発生しています。

シングルエンド入力に対しADC2個を差動で動作させた場合は以下のようになりました。

FreeDSP Catamaran A/B ver0.21 ADAU1701 ADC to DAC Differential Conversion Distortion Performance

20dB(ー桁)以上の大幅な歪特性の改善ができています。これはもう単品の高性能ADCチッ プ並み の特性だと言ってもい いと思います。 
DSPにオンチップのコーデックでこれだけ多くのアナログ回路を通していながらも、オーバー オー ル特性で汎用安物のオペアンプ単体より歪みが少ないという結果を得るに は、どこか一箇所でもダメなところがあると実現できません、こんな所がオーディオ沼の病気な所以ですね(笑) 

上記の測定結果ではちょっと低域のノイズが多いなぁと気になったので、このあとでfsを 96kHzに変えて、ノイ ズが少ないACアダプターを探してきて基板の置き場所も変えて測りなおしてみました。

FreeDSP Catamaran A/B Differential ADC to  Differential DAC Overall Audio Performance

低域側の誘導やACアダプターの電源ノイズだったと思われるノイズが消えています、40kHz まで通過帯域が拡 がったためなのか?歪みの量が0.00074%へと僅かに増えていますが、それでもオンチップのコーデックをスルーしてきた総合特性だと考えれば大したものだ と自我自賛しちゃっています。 基板を裸で測定しているのですが、特性を測るのもこのくらいまで来ると測定する周辺の環境も気にして測定しないと何を測ってい るのか訳が分からなくなってしまいがちです・・・

比較参考のためにバーブラウン製のPCM1820(32bit ADC, 192kHz)とかのデータシートと比べてみましょう、こちらは入力レベル-1dBでのデータ

PCM1820 DIstortion Performannnce  (Quote from Ti Datasheet)

ノイズフロアや高調波の量を比べてみても、単品のADCと比較してもぜんぜん負けてない事が判 るとおもいます。

オーディオ用ADCとしてよく使われていたPCM1804は同じディファレンシャル入力タイプ のADCですが、データシートに載ってるひずみ特性はこんな感じ・・・

PCM1804 Distortion Performance Curve  (Quote from TI Datasheet)

 こちらは周波数軸がリニアなので高調波の位置が左にずれていますが、ノイズフロア の低さも歪みのスペクトラムの量も負けてませんね、しかもこれらTIのデータシートはADCの出力をデジタルでFFTしたものに対して、上記のFreeDSP Catamaran A/BのデータはADC出力をDSPを通してDAC出力したものを、さらにEmu0404/USBのアナログ入力(低歪改造しています)でAD変換して測定したデータなの で遥かに条件が不利なはずなのにです。
ADAU1701に搭載されているADC/DACがいかにポテンシャルを秘めている物なのかが お判りになった事かと思います。

Evaluation of Differential I/O 差動入出力回路の効果について

[Jul.27th,2022追記]
人柱にとなって一緒に検証をして頂いたS氏からの報告によれば、複数のアンバラン スRCA入力パワー・アンプを使った3wayのマルチアンプ構成システムで共通グランド接続だとどうしても消せなかったGNDループに起因するハム音 が本機に変えたところ、思惑どおりに「消えた」そうです! ちんたらと測定法を考えてる間に効果の検証が先に出来てしまいました。(汗)

[Sep.20th,2022追記]
・・・という訳で、自分でも定量的に検証しておく必要性を感じたので、遅ればせながら測定して いみました。
DSP内蔵のコーデックのリファレンス電位を基準点と考えて、ディファレンシャル入力回 路では以下のようなモデルを想定しています。

    The Modeling Case of Common Mode Noise Input


信号源となるCDプレーヤ=等はDSPの搭載ADCの基準となる電位とは異なる電源系から取ら れる事もありますし、不平衡のピンケーブルには電磁誘導によりノイズや電位差Vnが乗ることもあります。 そこで信号Sに1kHz -40dBのサイン波、Vnには約100Hzを基本波に持つノイズを印加して動作を観てみます。

The Common Mode Noise and Attached Sine wave (20mVpp + -40dBv)

上側のオレンジ色の波形が電磁誘導ノイズを模して印加したノイズVnの波形、シアン色の波形が 1kHz -40dBのサイン波に20mVのコモンモードノイズVnが重畳したホット側の波形です。

通常のシングルエンドのアンバランス入力回路だとFFTするとDAC出力は以下のようなスペク トラムになり ました。

FreeDSP Catamaran A/B Common-GND connected Input Case (Input Cold-end was tie to GND)

1kHzのサイン波の信号Sに対して、約20dB小さいノイズのスペクトルが100Hzの整数 倍 に分布しているのが見えます。

この状態の信号をFreeDSP Catamaran A/BのディファレンシャルRCAピン入力で受けるとDSPに取り込まれDACから出力された信号は以下のようなスペクトルになりました。

FreeDSP Catamaran A/B Lifted-GND Input Case

通常のアンバランス方式と比較すると、1kHzの信号はそのままで100Hzのノイズ成分だけ が10分の1以下に (= 20dB以上) 抑制されていることが 判ります。 
つまりこれはソース機器をRCAピンケーブルで接続してもXLRケーブルによるバランス接続時 のように 同相ノイズのキャンセル効果が得られている事を示しています。
具体的な効果としてアンバランス出力のRCAピン出力しかない機器でも、シャーシーの電位差に よるハム音や、ケーブルを引き 回す途中で拾った電磁誘導ノイズが抑制されるという効果が得られるという点でメリットがあります。

次にDAC出力側のディファレンシャル出力回路の効果について観てみましょう。
DSPのDACの基準となる電位を基にしてブロック図を描くと、DSP側とパワーアンプとの関 係は以下のように表せます。

 The Modeling Case of  Output and Common-mode Voltage Difference


チャンネルデバイダーの場合、帯域別に何台もパワーアンプを接続することになります、したがっ てDSPのDACとパワーアンプの電位差Vnは、パワーアンプの数だけそれぞれで異なるものになると予測されます。つまりアンバランス接続ではこれら機器の電 位差の問題を解消できないという事です。その結果として本来の音声出力OUTに無い音(ノイズ)が出力されてしまいます。
しかし、ノイズ電位差Vnと同じだけホット側の出力が並行移動すればパワーアンプの入力回路段 では電位差Vnは「無かった事」になります。

ADC側の場合と同様にパワーアンプとの間に電位差Vnを与えてみます。 オレンジ色の波形が 次段との 電位差Vn、 水色の波形は電位差分Vnが重畳された出力ピン(ホット側)の波形です。

The Common Mode Difference Voltage Vn and FreeDSP Catamaran A/B's Output Signal (20mVpp + -40dBv)


もしGNDリフトをしない場合はホット側の1kHzのサイン波形は搖れませんが、受け側のパ ワーアンプの入力段ではコールド側に電位差Vnがあるので相対的に信号が搖れてしまうことになります、つまり電位差Vnが音としてスピーカーから出てしまう事 になる訳です。 以下のその場合の出力スペクトラムを示します、単純に出力OUTと電位差Vnの信号レベル差のまま出力されるので、これはハッキリと電位差が ノイズとして聞こえてしまいます。

以下に通常のRCAピン端子のコールド側がGNDに直結されているアンバランス接続で出力した 場合の受信端でのスペクトルを示します。

FreeDSP Catamaran A/B Single-End mode Output to Power-Amplifier Input Signal Spectrum

1kHzのサイン波OUTと20dBも差がない状態で電位差Vnが信号を汚してしまっていま す、これではノイズが気になって音楽どころではありませんね。


そこでFreeDSP Catamaran A/Bの出力をディファレンシャル接続にすると以下のような信号が次段のパワーアンプ段に伝わりました。

FreeDSP Catamaran A/B Differential-Output to Power-Amplifier Input Signal Spectrum

ディファレンシャル出力にすることで、機器間電位差に起因するノイズが100分の1以下に (= 40dB以上)抑制されている 事が測定できました。 

これで人柱になって検証頂いた方の「グランドループで生じるハム音が消えた」という現象が、完 璧には消えていないまでも、殆ど聞こえなくなっている という事が本当に起きるということが証明されました。
 ご存知にように殆ど民生オーデイオ機器はRCAピンで接続するアンバランス接続です、日本で は接地ピンがないクラス2の電源コードを持った製品が主流ですが、海外に目を転じれば特にパワーアンプではクラス1の接地ピンがある電源コードが主流であり、 何もしないと必ずグランドループの問題が起きてしまいます。 今回のFreeDSP Catamaran A/Bの設計途中でDIYオーディオフォーラムで公開したところ、海外のメンバーからバランス伝送を望む強い要望があったので設計に取り入れた事でこのような回路構成にな りました、その結果これまであまり気に していなかった機器間の電位差問題と、これらを考慮した回路設計は有用であり、実際に効果が得られるものなのだと気づくいい機会になりました。 単なるカタログスペック的なチャンピョンデータよりも実用的な使用環境でちゃんと性能が出せる事のほうが大事かもと思えてきますね。




Version 1.x PCB Design

version 0.21基板で動作することが確認できたので、version1.01の設計データーを公開しました。FreeDSP のGit-Hubのリポジトリからダウンロードできます。

このリリースでは以下の点を変更しています

Version 1.2 PCB Design Release

version 1.01基板まではA/Bのプログラム切り替え操作をした後に、一度電源SWを切るかリセットボタンを押す操作をする必要がありました。 基板の空きスペースの制約から押 しにくい位置にリセットボタンをつけざるお得ない状況なのに加えて操作体系的にもいまいち洗練されていない感が高かったので、プログラムA/B切り替えスイッ チの操作に連動して自動でDSPがプログラムを再ロードするように改良しました。 この改良に伴い、手動でリセット操作をする必要が無くなったため、リセット ボタンを削除しました。 verision1.01からの変更点は以下の通りです。

Released Schematic Version 1.2

U10のXORゲートの入力にはDSPプログラム切り替えスイッチSW2の信号と、これをCR で遅らせた信号が入っている。 このXOR出力は両者が違うロジックレベルのときだけ出力のPCHGがHレベルになる、そのためにQ4がオンするのでDSPは RESET端子がLレベルとなってリセット状態になる。つまりスイッチSW2を操作した瞬間に自動的ににリセットが掛かってDSPにはファームウェアがロード される。DSPのリセットスイッチは不要となり削除できたことで空いた空間にAUTO-RESET回路を実装した。

Released PCB Version1.2  (Top View)


Released PCB Version1.2  (Bottom View)

vwe0.21からの変更点は、抵抗の定数以外ではU4の品種変更、MP0とMP1の入れ換 え、発熱量分散のためU7 の電源ソースを 変更、C70を追加、J7のピン数変更、プログラムスイッチ連動のDSPリセット回路追加などです。




PCB Design Files

Git-Hub https://github.com/freeDSP/FreeDSP_Catamaran_AB(← 最新の設計ファイル類はこちらからクローンしてください)


Version Histories

VERSION Date Note
1.0 18th, May. 2022 Initial Released version.
1.01 13th, Jun. 2022 Fixed some parts values.
1.2
9th, Jul. 2022
Add a feature of "Auto Reboot on Program Change". Some parts values are changed.






Example SigmaStudio Project

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