3AXIS CNC INSTALLATION PROJECT |
趣味でハードウェアを作っていくうえで、まずは中身から始めて、次にその入れ物へと作業が移ってい くわけだが、私の場合 中身が完成した頃には関心が次のテーマへと向いてしまい放置となってしまう事が多く、その結果として実装済みのプリント基板の山が積み 上がっていくばかりで、こうなると実際に動作させて使い続ける事は滅多になくなってしまう。
モノを作っている時間と使っている時間のどっちが多い?と問われれば、それはもう圧倒的に作って いる 時間の方が長いのが現実なのだが、気に入った物ができた時はそれなりのエンクロージャーに入れて完成形にすることでより大きな充実感が得られるし、安全かつ安 定にいつでも必要な時にすぐ使える状態となる。 しかし現実的に2つ問題がある。 一つは中身より入れ物の方が費用が掛かってしまう事が多く、限られたポケッ トマネーの中から筐体に支出するよりも次のテーマへと限られた予算を使わざるお得ない状態になりがちなこと。 もうひとつは、コストをかけ部材を入手し手にマ メを作って苦労して金属加工しても精度が出ず、ツマミが一列に並ぶような単なる丸穴加工でさえ綺麗に一直線に揃わない(単に加工テクが低いという現実)その結 果完成したエンクロージャーを見るたびに、不揃いなノブを回すたびに、P-touchで透明テープに印刷して貼り付けたレタリング文字が剥がれかけてきてるの を見る度にガックリ落ち込んで残念な気分になってしまう。 そこでつい「綺麗にできないのは工具が良くないからだ」と理由づけてハンマーが要らないセンターポ ンチを買ったり、切れ味の良さそうなドリル刃を買ったり、しまいには、いつかはXYテーブル付きのボール盤を購入しようと真剣に考えていました。
ふと現実を見ると友人が3Dプリンターを持ってて普通に使っていたり、手芸やってる主婦がレー
ザーカッター使って部材を切り出していたりする時代になっており、ボール盤を購入する費用と大差ない金額で3軸のCNCマシンが買える時代になっているという
事に今ごろになって気がつきました。そこで既にCNCフライス盤を持ってる友人に「アルミ材の加工って出来るの?」「騒音はどうなの?」「加工精度はどうな
の?」「耐久性はどうなの」と質問攻めにした結果、「買っちゃえ!」という運びになりました。
なるべく安く上げたいので中国から輸入することと、購入しようと決断した時期がちょうど中国の「独 身の日」寸前だったので大セールが始まるまでの間に十分リサーチを行いました。まず加工できるワークのサイズですが大は小を兼ねると考えてなるべく大きいほう が良さそうなのとコスパのバランスから3018 (最大加工寸法30cm x 18cm)シリーズに絞りました。 次にレーザーカッターは焦げ臭いし私が作るような物(例えばアクリル板とか)を切れる程のパワーだと危ないし、値段もグッと跳ね上がる ので不要と判断。 面付けしたプリント基板のVカット加工やミシン目ルーター加工、シャーシーの穴加工やパネルの穴あけ、アクリル窓の切り出しなどの用途を想 定、あわよくば彫刻ミルによる文字入れが出来ればいいなと考えながら探しました。 webの商品画像を細かく見ていくと、例えばモータを固定するクランプが明 らかに3Dプリンターで印刷した樹脂製だったり(割れたと友人か聞いていた)、見るからに強度が足りなさそうなフレームで筋交いを入れて補強してあったりする ようなものを避けて最終的に選んだのが全メタル部材が売りのCNC3018 pro MAXというモデルでした。「grbl」という制御ソフトが付いていることと、大したコスト増でもないのでオプションの「オフラインコントローラー」(マニュアルで軸をう ごかしたり、SDカードにGコードを書き込めばPCなしで加工ができるデバイス)を追加し、オマケで彫刻用ミルが10本付属しているショップで購入しました。
CNC本体とコントローラーで1.5万円、送料が訳6千円の合計2万円ちょっとでポチり、1週間程 で到着しました。
組み立てキットなのでバラバラの部品の状態でダンボールに入って届きました。
簡単な組み立て説明書とYouTube動画を参考に、途中X軸のスライドレールが動きが良くなかっ たのでグリスを塗ったりしながら2時間程でブレームの組み立て完了。 さてモーターを取り付けようとしたところで、なんとキツくて入らない! 無理やり広げて しまうとアルミ製のクランプが割れてしまいそうなので、クランプの真円が出てない部分をハンドルーターとヤスリで地道に削ってなんとか組み立てる事ができまし た、う〜ん中華クオリティを感じるこの瞬間♬
組み立てる際のボルトは端からキツく締めないで、ある程度の構造が完結したところで無理なくガタな く固定できるよう微調整しながら締めて行かないと歪んでしまい精度が出ないようです。一番薄い支柱のアルミプレートでも厚さが10mmあるので斜めになった状 態でボルトを締めてしまうとダメージが生じそうです。
スピンドルを空転させるだけなら大したことないのですが、い ざ切削加工を始めると「ガギュ〜ん」といった騒音と削りカスを盛大に撒き散らすので、最低でも周囲に囲いが必要です。 そこで防音を兼ねたボックスを作って中 に収めることにしました。 ワークをセットする際に作業がやりやすいよう開口部を大きくしつつ完全にフタをできるようにと考えて以下のような構造のボックスに しました。CNC 本体は100均で購入した緩衝ゲルで箱からフローティングした状態になっています。
天板はスライド丁番で開閉が可能で、ガスダンパーによって開 いた状態でも保持されるようにしました。 前面の窓は内と外で空気層を挟んだ2重構造になっています。内部には電源タップとシャットダウンスイッチを取り付 け、未使用時や緊急時にすぐ遮断できるようにしました。内側壁左右にテープ状のLEDによる照明を設け影で作業がやりづらくならないように配慮しました。それ でもワークの原点をセットする際に横方向から覗くのも大変なのでX軸に沿って照らすようなレーザーラインマーカーを付けてみようかと検討しています。現状オフ ラインでの切削がメインなのですが外側にUSB-B型レセプタクルを付けてPCとの接続が楽にできるようにしようと思っています。
エンドミルやV型ミルで削ると切り粉がミルの周辺に山盛りに なるので時々ハケで掃除しながら作業していいましたが、ちょっと目を離した隙にミルが高温になり接触した切り粉が溶けてしまい、せっかく削った加工跡が見るも 無残な状態になったり、アクリルなど樹脂の場合は飴玉のように纏わりつくて破損してしまったりと苦い経験をしました、そこで作業中のミルの冷却と切り屑を吹き 飛ばすエアーブロワーを取り付けてみました。
PCの空冷ファンとかも考えたのですが、盛大に埃が舞い上 がってしまうので、ピンポイントで吹けるようにブロワーにしました。 いつものようにAliExparessで調達、中国からの送料込みで580円、安い!。
加工データの作成ミスとかでキャリッジに当たってしまうと壊れそうに大きな音が出ますし、何度も やってしまうとガタが出て精度も悪くなってしまいそうなのでリミットスイッチを追加することにしました。各軸の両端でメイク接点がオンするだけなのですが取り 付けた後の安心感は絶大です。ただしオフライン動作中に作動してしまった場合はもう動けなくなるので電源を落として最初からやり直すしかありません。 しばら く実際に使ってみてZ軸の下側だけはミスりそうな気がしないのでここのリミットスイッチは省略してしまいました。
Z軸上側リミットスイッチ (下側は省略)
X軸のリミットスイッチ
Y軸のリミットスイッチ
3D-CADの定番と言えばFusion360だったのですが、先日唐突に個人使用無償ライセンス では大幅な機能制限がされてしまいました。 ワンストップで設計からCNCデータの作成まで行えるのでメインの使用を考えていたのですが、さすがに個人で有償 ライセンス契約するには高すぎるので、私の主な用途であるパネル加工や基板のカット程度なら2D-CADのマルチレイヤーで設計してZ軸データは層別に指定す る程度で十分なので方針を変更し、2つのソフトを連携して目的を達します。ワークフロー的には以下のようになります。
2D-CADで平面図を作成 → DXF形式ファイル → CNCデータ作成ソフトでレイヤ 別のGコードを生成 → ファイル別に切削
マシンの都合で、加工の工程別にエンドミルを手動で交換しなくてはならない都合上、複雑なツールの 使い分けなどの機能も必要ないのでこれで十分目的が達せます。
DXF形式でエクスポートできる2DのCADソフトは無償のものでも色々と見つかりますが、パネル に文字を彫刻したかったので好きな文字フォントが選べて日本語もアウトライン化OKのAR-CAD 2016を使用することにしました。 加工に使用するエンドミルの太さを入力する と自動的にミルの半径分をオフセットしてくれるようなCADが理想なのですが無償のソフトでは望むべくもないようなので設計する人間側のアタマで対処します。 よって機能 的に必要なのは複数のレイヤー別に作図ができてDXF形式でファイルが吐けるだけで十分なので自分が使いやすいと思ったものを選べば良いと思います。 私は最 初InkScapeを使おうとしたのですが描画したオブジェクトの座標がオブジェクトの中心ではなく端でこの用途に適さないので乗り換えました。
AR-CADの画面例
Layer |
NAME |
Pen
Width |
Color |
Comment |
0 | WORK | 0.01mm | Magenta | ワークの外形と加工する輪郭を作図 |
1 | ORIGIN | 0.1mm | Red | 加工原点を中心にした円を描きます |
2 | CAM1 | 0.2mm | Green | V型ミルでの彫刻加工内容を作図 |
3 | CAM2 | 1.0mm | Blue | 1mmフラットエンドミルでの加工内容を作図 |
4 | CAM3 | 3.18mm | Black | 1/8"(3.175mm)フラットエンドミルでの加工内容を作図 |
Mill | Diameter | Shape | Purpose |
約0.2mm | 彫刻用V-Shape MIll, 20度,半円 | PCBのVカット、パネルの文字入れ用途など | |
1.0mm | Flat EndMill | PCBの外形カット加工、面付けした基板の切り出しなど (送り速度が早いと簡単に折れるのでスペア必須!) |
|
3.175mm | Straight Flat EndMill | ネジ穴、パネルのカット/窓穴あけ、アクリルの加工 |
手持ちのミルは最小限の上記3種類で済ませています、文字入れは素材にもよりますが彫りの深さは 0.2mm〜0.25mm程度で行っています。
私の場合プリント基板の加工をやるので極細のミルも必要ですが、パネル加工だけなら鋭角20度のV 型ミルとストレートな1/8"フラットエンドミルの2種類があれば大抵の加工は事足りそうです。 最初の頃にデーターの作成ミスや原点の指定ミス、送り速度が 早すぎて ポキンとか、情けないところでワークを固定するクランプがぶつかってミルを破損してしまうという事故を何度も経験したので、始めてトライされる方はミルの細い ものについては10本セットで購入し不測のアクシデントに備えておくのが無難でしょう。
NCVCのトレース画面
機種が違うとパラメーターに対するスピンドルの回転数が違う可能性があるので参考程度に・・・
素材 |
加工内容 |
使用ミル | Z軸速度 |
送り速度 |
回転パラメータ |
ガラエポ基板 | Vカット | V-Shape Mill | 100mm/min | 120mm/min | S12000 |
ガラエポ基板 | 外形カット加工 | 1,0mm Flat EndMill | 80mm/min | 60mm/min | S12000 |
アルミパネル | 穴あけ、窓あけ、深堀り 0.12mm | 3.175mm Straight Flat EndMill | 40mm/min | 50mm/min | S12000 |
アルミパネル | 文字入れ | V-Shape Mill | 80mm/min | 70mm/min | S800 |
アクリル | 文字入れ | V-Shape Mill | 80mm/min | 70mm/min | S200 |
アクリル | 外形カット、深堀り0.2mm | 3.175mm Straight Flat EndMill | 80mm/min | 100mm/min | S200 |
アクリル窓の切り出し
MDFをエンドミルで彫ってみた
V型ミルでアルミパネルに文字を彫ってみた
購入後、設置場所の関係もあって、SDカードに加工データーを書き出してオフラインコントーロール で使ってきたが、以下の2つの理由でPC(私の場合はiMac)と繋いでUSB経由で制御することにした。
1.Z軸の原点調整が簡単になる
2.何か問題がおきて途中で止まってしまっても、そこから加工を再開できる
ワークをセットしてからマニュアルでエンドミルをR点に持ってくのですが、特に1の調整で、なぜか 3180 pro MAXにはZ軸だけ手動調整用のツマミが付いていないので、面当てをする際に油まみれになるのを覚悟でスパイラルシャフトを手で廻すか、ボタン制御で少しづつワークに接触 するまで動かすことを繰り返すのですが、後者は止めるのが難しくてエンドミルがワークに刺さってしまったり、最悪な場合には折ってしまったりする失敗をする事 があるので、何度も失敗すると精度にも影響が出てきそうなのでオンラインで動かすことにしました。 下の画像のようなタッチプレートがあれば簡単にZ軸の原点 調整ができるようになります。
以上のようなメリットがあることを知って、私のメインPCはiMacなのでMacOSで使えるも のがないかと探してみたら「CNCjs」 というプログラムが公開されいました。 USB-シリアル通信のポート名を調べるのに少し手間どりましたが、画面表示も一部が日本語されていてとても簡単に使 うことができました。接続後はリアルタイムで加工の進み具合や終了時刻まであと何分あるとかの情報が判るもありがたい機能です。 以下にスクリーンショットを載せておきます。
普通のUSBケーブルは5mまでしか延長できないので設置場所に制約がありますが、とても便利なの でオススメです。
小さなモーターで果たして加工できるのか不安だったアルミ材の加工も、ゆっくりやれば何ら問題なく
加工できる事が分かって一安心できました。 ただ問題は騒音/振動と設置場所を消費する点ですが防音箱を作ることで昼間ならご家族にも迷惑にならないレベルで
加工を行えるようになりました。 なによりも高精度でパネル加工ができるので、これまで憂鬱だったシャーシー加工が一気に楽しんでできるようになりました。
例えばアンプの天板に換気用の天窓やスリット穴を数多く開けるなんて事は手加工でやるとなるとぞっとする位の手間ですし、なにより綺麗に揃わないのでやる気も
起きません、しかし机上で描いてCAMソフトでデータ作るだけのNC加工なら、ワークをセットしてあとは機械任せで済むので画期的です。 アルミパネルに窓を
あけてアクリル材を嵌め込むなんて加工も、むしろ楽し
んでできるようになったので導入して本当に良かったなと思っています。 ボール盤買わなくて良かった(笑)